船員になるには。

f:id:mdreon11:20200621143803j:plainPhoto by Andreea Swank on Unsplash

船員といわれると、漁船に乗る人を想像する方も多いかと思います。

漁船に乗る人ももちろん船員ですが、本記事では主に海運企業などに所属する船舶職員になる方法について紹介したいと思います。

1. そもそも、船員とはどのような仕事か

まったく船を知らない人が想像しやすいのは、『パイレーツ・オブ・カリビアン』に出てくるような帆船で、船長(Captain)が木製の舵輪を「ヨーソロー」と言いながら回している光景ではないでしょうか。残念ながら私はリアルでそのような光景を見たことはありません。(ただし、帆船は日本でも存在し、実習で乗れます)

実際の船員は、コンテナ、自動車、石炭、石油などを積んだ機船(タイタニックのような鋼鉄の船)で、船の運航にかかわる業務を行っています。

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Photo by Martin Cox on Unsplash

船員は主に船の運転と荷役などを担当する甲板部、エンジンやその他機械の始動、整備などを担当する機関部、事務作業や食事、医療を担当する事務部、他船や港と連絡を行う無線部があります。

船の種別や内外航によって変わってしまいますが、確実にあるのは甲板部と機関部のみになります。

無線部はほぼ存在せず、甲板部に所属する航海士が無線業務を兼任します。

事務部の事務員や船医、看護長も乗っていることはほぼなく、事務作業は航海士、機関士が行い、医療行為は「船舶に乗り組む衛生管理者資格」を持つ航海士が行います。といっても、今現在は衛星電話が整備されているため、陸上にいる医者のアドバイスを受けたり、最悪の場合はヘリコプター輸送が行われるそうで、簡単な医療行為しか行われないようです。さすがに専門ではない航海士が、複雑な医療行為をするのは怖いですからね笑。

外航船では司厨員(料理を作る人)は乗っています。港から港までが遠く素人では食料管理などが厳しい上、唯一の楽しみである食事くらいは専門の人に作ってほしいというところだと思います。

無線部・事務部は、実習生を乗せる練習船や旅客を大量に乗せるクルーズ船、そして聞く限りでは海上自衛隊海上保安庁にはあります。私はあまり詳しくありませんが、基本的には航海士・機関士になるコースとは別ですのでお気を付けください。

 

2. 航海士・機関士とは 

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Photo by Philippe Oursel on Unsplash

航海士・機関士についても具体的に解説しようと思います。

まず、航海士・機関士のほかに甲板部員、機関部員というものが存在します。

士と名の付く人たちは海技士と呼ばれる大型船のための免許(免状)を取得し、会社から職員として配乗させられた人たちのことです。 

航海士(Officer)とは船舶において主に操船(運転)、荷役、整備業務を担当しています。

操船業務では船橋(Bridge)で操船と見張りを行います。

基本的には操船は部員に指示を出して操舵してもらうか、オートパイロットで設定された針路に進みます。見張りは目視によるもののほか、レーダーを用いたものがあります。

荷役作業ではカーゴタンクなどにある荷物を降ろす作業や港の荷物を揚げる作業があります。荷物の種類によって変わってしまうため一概には言えませんが、自動車船やコンテナ船のようにほとんどの作業を港湾作業員が行うものもあります。

整備作業は船体の錆を落としたり、救命機器や甲板機器の管理、会社によって変わるかと思いますがトイレなどの整備を担当したりします。私自身が航海士ではないため、あまり詳しくはありません。

 

機関士(Engineer)は船舶において機械の始動停止・保守整備・補油作業などを担当します。

船に搭載される機械は10や100で収まるものではありません。以下に一般的な機械を列挙します。

  • 主機(Main Engine) × 1
  • 発電機・原動機(Generator) × 3~
  • 主機用ポンプ(高温冷却水、低温冷却水、燃料、潤滑油)× 3~
  • 主機用の空気圧縮機(始動、制御) × 2~
  • 発電機・原動機用ポンプ(高温冷却水、低温冷却水、燃料、潤滑油) × 0 ~
  • エアコン(空調用の圧縮機、ファン、ポンプ、復水器) × 2 ~
  • エレベーター × 1

などなど。

適当に上げてみましたが、上記だけでも30個あります。手元にある練習船の資料では壊れそうな機械を数えたところ160程度でした。ただし、これには機械に付属するポンプ類が含まれていなかったりするので、合計すれば200以上になるかと思います。

会社の船になれば、荷役機械やバラスト関係の機械が追加されるので、2倍3倍と数はふえていくはずです。これらの機械を管理していくのが機関士の主な仕事となります。

陸上にいる人には想像しにくいかもしれませんが、船の上では機械はよく壊れます。振動や潮風という劣悪な環境もありますが、沢山の機械が1航海ずっと動きっぱなしであるためです。車も1週間動かし続ければ何らかの異常がありそうですよね。

主機のような大型機械は基本的には1つしかありませんが、それ以外の推進に関わる機械はほぼ全て予備機が存在します。発電機が3つ以上あるのも、電力が足りないときのためだけでなく、1つ壊れても大丈夫なようにです。

補油作業は船の燃料や潤滑油を補充する作業です。

 

3. 船員になる方法 

では、本筋である船員になる方法について解説します。

船員の中でも、船舶職員になるには海技士という資格を持っていなくてはなりません。

航海士であれば海技士(航海)、機関士であれば海技士(機関)の資格が必要となりますが、これらは一般的な資格とは違い、原則実務経験(乗船勤務)を必要としています。内航(国内)貨物船に従事する場合は4級、外航(海外に行く)貨物船に従事する場合は3級が基本となります。

部員として決められた総トン数や航行区域、出力(機関の場合)の船で3年間勤務すれば海技士4級が取得できるそうです。Wikipediaを見ればわかりますが、条件等も多く、複雑に見えます。しかし、基本的な内航船に乗っていればクリアできる条件ではあります。

海技士は6級からありますが、総トン数が10トンなどと書いてあることから、漁船やタグボートなどを想定したものなのかなと思います。正直よくわかりません。

 

海技士は学校に通い、乗船履歴を満たして口述試験を受ける方法が一般的になります。 

・海洋、水産高校、海上技術学校では3年6か月で4級海技士が取得可能。(ただし機関は内燃機関限定)

・商船高専では、5年と6か月で3級海技士が取得可能。

海上技術短期大学校では2年で4級海技士が取得可能(機関は内燃機関限定)、さらに海技大学校に進めばもう2年で3級海技士の取得可能。

・神戸大海事科学部、東京海洋大学海洋工学部では4年と半年で3級海技士が取得可能。

東京海洋大学海洋科学部、長崎大学水産学部鹿児島大学水産学部では4年修業後、東京海洋大学の水産専攻科で1年修業することによって海技士3級(航海)の取得可能。

水産大学校では4年と専攻科1年で海技士3級の取得可能。

東海大学では、4年と半年で海技士3級(航海)が取得可能。

日本郵船商船三井川崎汽船という大手海運3社では、自社養成コースにより一般大学(有名大学が基本)から船員を志す学生を取り、入社3年目に3級海技士が取得可能。

他の海技士取得方法には、未経験で内航船舶に就職後、尾道海技学院といった養成機関で育てるものなどがあります。

上記の方法全て海技士筆記試験及び乗船履歴が免除となり、口述試験(面接)のみで資格が取れるコースとなっています。

 ※私自身商船大学出身のため、特に4級海技士近辺は古い情報かもしれません。各学校をしらべることをオススメします。

4. どの方法がいいのか。

どの学校がいいとか、この学校は就職時に大変だとかはありますが、各々の人生プランや経済状況、乗りたい船などによって大きく異なりますので、ここが一番と断じることはできません。

とりあえず、外航船員として就職できるコースというのは私の勝手なイメージではありますが

神戸、東京≧自社養成コース>商船高専>水産系大学≧水産大学校

といった具合になっていきます。

大手の海運会社となっていくと、海技者として陸上勤務がありますので、陸上でも手腕を発揮できるようにか大学出身の人間が多くなります。

自社養成コースは出身大学が東大だったり一橋大だったりとエリートの方が多いですが、まだ始まったばかりのシステムで、日本郵船では今年ようやく初めての船長が誕生したほどです。なので、今後増えていきはしそうですが、まだ当分模索の日々が続きそうです。

商船高専も古くからあるため、よく見かけるイメージがあります。朧気ではありますが、某船会社では海上職を中心にずっとやっていく社員の採用が計画されており、それを主に商船高専からとろうと考えているという話を聞きました。正直とん挫したのかどうかはわかりませんが…。会社の考え方にもよるのでしょうが、準大手では商船高専出身の方がよくいます。

水産系大学は航海士のみの養成ということや4月入社なども関係するのかあまり見かけません。特に航海士は倍率が高い職種になりますので、機関士より就職が難しいです。商船系のように専門ではなく、水産を学びながら船を学んでいることや、あまり歴史が古くないことも関係あるのかもしれません。

水産大学校は航海士・機関士の養成を行っていますが、あまり見かけたことはありません。水産大学校だけ他の学校と違い単独で考えていることもあるので、絶対数こそ少なくても比率的には多いのかもしれません。

 

5. 学校に入った後の流れ(商船大学)

では、ここから実際の船員になるまでの流れを東京及び神戸の商船大学の例で紹介します。

東京は入学する学科によって航海士になるコースと機関士になるコースにわかれます。といっても1年次は基礎教育科目がほとんどの上、乗船実習も航海士機関士両方について学ぶので、転学科することによってコース替えは可能です。

神戸大は2年次進級で学科選択があるので、そもそも入学時には決まっていません。マリンエンジニアリング学科を選択後、さらに機関コースか航海コースへと進んでいきます。

乗船実習が4年生の終わりまでに合計6か月あります。1回の乗船は1か月か2か月となり、1年に1回程度となります。大学を卒業し、学位を取得後、乗船実習科と呼ばれる半年間の専攻科へと進みます。こちらは2か月程度の乗船が2回となります。ちなみに乗船実習に使われる船は大学の船ではなく、海技教育機構の船となります。帆船である日本丸海王丸か機船の銀河丸、青雲丸、大成丸のいずれかの船にのって実習を受けます。この海技教育機構には東京、神戸のほかに商船高専、海技短大、尾道海上技術学校、自社養成の方も乗り合わせますので、多様性にあふれています。

遠洋航海と呼ばれる海外に行く航海は乗船実習科からになります。海王丸と呼ばれる帆船で帆走と機走を駆使して、海外へと向かいます。昔はハワイやバンクーバーなどでしたが、最近はオーストラリアあたりが多いようです。

乗船実習を修了後は10月に口述試験を受けて、合格すれば会社に入社します。入社後の流れは様々ですが、タンカーなど危険物搭載船では第二海保での消火訓練を受けたり、ほかにも船舶衛生管理者資格のための研修だとかを受けていきます。会社の船が港に着くタイミング、ほかの船員の配乗の具合などを見ながら乗る船が決まります。12月から翌年の1月ぐらいに乗るかと思います。

その後は会社のプランに合わせて乗船を繰り返す流れとなります。

なお上記流れは大手三社以外の会社の場合の話です。大手の場合は乗船実習科ではなく会社の船で訓練を受けていきます。

 

6. まとめ

船員という仕事、船員のなり方についてわかったでしょうか。

海上職は身近で手に入る情報が少なく、また船員を紹介しているサイトも古い情報だったり、内航と外航では違うことが一緒に紹介されていることもあります。特に外航船員は日本国内では3000人前後の上、若い世代(30代以下)となると1000人を切るような職種です。

ぜひ興味がわいた方は自分なりに調べてみるとよいかもしれません。

 

7. 参考文献(というよりは見ておくとよいサイト)

www.kaiyodai.ac.jp

www.kobe-u.ac.jp

www.jmets.ac.jp

大型船舶を運航するためには(海技士)

 

j-crewproject.jp